地下探査レーダによる月・惑星・小天体表層構造の研究

地球は,活発な地殻変動と大気海洋の存在によって絶えず表層が更新されてしまいますが, 月では地殻変動・大気海洋が存在しないため,過去の履歴が残されやすい環境にあります. また(地球を除いて)唯一有人探査が行われていて アポロ試料など豊富な手がかりが得られている天体でもあります. 1960年代以降半世紀にわたって主な探査対象は地形や表面組成に限定されてきましたが, 2000年代には周回機搭載サウンダ(SELENE,日本)による全球地下探査, 2010年代にローバ搭載地中レーダ(CE-3,CE-4,中国)による地表からの詳細探査が行われ, 最近の資源探査の関心もあって,月の地下は新たな探査の「フロンティア」となっています. 現在は, SELENEの観測データに加えて,CE-3のデータも公開されており解析研究に利用可能です. SELENEの観測では,月の海領域で地下の古いレゴリス層からの反射が発見され, これらを用いた溶岩層の厚さ,過去の火山活動の履歴の推定が行われました. 特に最近は,CE-3, CE-4で,様々な地中レーダの解析手法が導入されており, これらを参考にした新たなSELENEデータの解析にも取り組んでいます.

月以外でも,火星では2000年代に周回機搭載サウンダ(欧州,米国)による全球地下探査が行われました. 今後,火星地表での詳細探査,彗星核などの小天体の内部探査も行われていくことになるでしょう. こうした将来の探査に向けて,ローバ・小天体探査機に搭載可能な 地下探査レーダのハードウェア検討を進めています. 今後の探査では数cm~数mの高分解能観測が重要となってくるため, UHF帯,マイクロ波帯地下レーダの試作モデルを開発し,土壌計測実験を進めています. 並行して,計算機によるレーダの散乱波・透過波のシミュレーションを行って, 計測点に到来するエコーから,逆問題として地下の誘電率構造を推定する解析手法の検討を進めています.
特に関心のある方は,こちらの演習課題も参照ください.

木星電波地上観測による木星磁気圏・電離圏の研究

木星デカメータ電波の地上観測をもとにして, 木星の衛星-磁気圏-電離圏結合系の変動を議論することができます. 特にミリ秒の時間んスケールで変動するS-burstは,伝送レート有限の探査機では観測困難なため, 地上観測が重要な観測手段になっています. 放射の周波数変化から加速電子の高度・速度を, 準周期性から衛星-磁気圏-電離圏結合系に生じる 低周波波動の電子加速への寄与を推定することができます. 観測局が手近な範囲(県内・隣県)にあるので 観測装置の維持・改良が容易で,新たなアイデアを試行しやすい点もメリットです.

観測ロケット・小型/超小型衛星による地球電離圏・磁気圏の研究

地球の内部磁気圏で観測運用中のあらせ(ERG)衛星の観測装置のうち PWE/HFA(プラズマ波動電場観測装置・高周波受信部)の開発を担当しました. HFAで常時観測されるUHR(高域混成共鳴)波から プラズマ圏内外での電子密度を決定することができます. 2021年11月にはSS-520-3号機(Svalbard打上,電離圏カスプからのイオン流出を観測), 2022年8月にはS-520-32号機(内之浦打上,電離圏の中緯度伝播性擾乱を電波トモグラフィ) の実験が行われ,観測データの解析を進めています. 引き続き,2024年夏にはS-310-46号機(内之浦打上,Sporadic-E層を詳細観測), 2025年度末には,無線送電実証衛星(低軌道小型衛星による無線送電実証実験. 大電力マイクロ波が電離圏に与える影響をあわせて調査), 2026年には,PCUBE(超小型衛星, 磁気圏ダクトと降下粒子の関係を調査) が予定されています. これらの観測ロケット・小型/超小型衛星ミッションで 電子密度計測用インピーダンスプローブ,プラズマ波動観測装置の開発を担当しています. 観測ロケットは,比較的短い期間に設計・開発・試験・観測が完結する点がメリットです.